相続改正「配偶者居住権」って? | 世田谷不動産情報館

今朝もテレビ等で取り上げられた相続税改正の中の「配偶者居住権」について、当社もおつきあいのある弁護士 吉田修平氏が解説しておりました。

これについてはまだまだ揉まなければならない課題がいっぱいあるように思いますが、住み続けた家を相続により売却しなければならなくなる妻を保護するための手段である部分は多いに評価したいと思います。

本日はその一部ですが詳細をお知らせいたします。

「配偶者居住権」の創設

配偶者居住権とは、ひと言でいうと「配偶者が自宅に住み続けられる」権利です。

自宅を所有していた夫が死亡して相続が発生した場合に、同居していた妻(配偶者)が自宅を相続してそのまま住み続けたいと思っても、そうできない事態が度々発生することがあります。

たとえば、配偶者とその子供1人が相続人で、法定相続分に従い1/2ずつ相続財産を分割したとします。その際、相続財産全体に対して自宅の評価額が高額な場合、配偶者が自宅を相続すると、夫名義の預金などほかの財産を相続できなくなってしまうのです。

そこで、相続開始時に被相続人と自宅で同居していた配偶者については、引き続き自宅に住み続けられるよう「配偶者居住権」という権利が創設されました。配偶者の居住権には、次の2つの種類があります。

配偶者短期居住権

「配偶者短期居住権」とは、遺産相続が発生してから遺産分割が確定するまで、もしくは相続開始から6か月が経過する日の、いずれか遅い方の期間まで、配偶者が無償で自宅に住み続けられる権利です。遺言書などでの事前の取り決めは不要で、被相続人の自宅に無償で同居していた配偶者であれば、相続が開始することによって自然と権利が発生します。

これにより、遺産分割で自宅の所有権がほかの相続人に与えられた場合にも、配偶者の居住権ががすぐには消滅せず、最低6か月間は無償で住み続けることができるようになりました。

配偶者長期居住権

相続発生後も配偶者が自宅に住み続けられるという意味では配偶者短期居住権と同じですが、長期居住権は原則、配偶者自身が亡くなるまで有効な居住権です。ただし、遺産分割や遺贈(遺言書による譲与)によって定めなければ得られないため、配偶者短期居住権のように、自然に発生する権利ではありません。

現行法では自宅の所有権だけが相続財産としての評価対象となっていますが、改正法では「自宅の所有権」と「長期居住権」に分かれて評価されることとなります。

たとえば、相続財産が「評価額3000万円の自宅」と「3000万円の預貯金」で、相続人が配偶者と子の2人となるケースをみていきましょう。その時、「評価額3000万円の自宅」の内訳は、「長期居住権の評価額:300万円」「自宅所有権の評価額:2700万円」と仮定します。

この場合の法定相続分は1/2ずつとなりますので、配偶者の相続分は「長期居住権300万円+預貯金2700万円=計3000万円」となります。

一方で、子の相続分は「自宅の所有権2700万円+預貯金300万円=計3000万円」となります。

配偶者は自宅に住み続けながら預貯金の相続も可能に

これまでは、配偶者が引き続き自宅に住み続けるためには、自宅所有権を相続する必要がありました。

ところが相続財産のうち自宅の評価額が大部分を占めるケースだと、配偶者が自宅を相続してしまうことで預貯金が相続できなかったり、他の相続人に対して代償金の支払いが発生したりといった問題が生じることがありました。そのため、やむなく自宅の相続を諦める配偶者もいたのです。

今回の改正では、居住権は所有権よりも評価額が低くなると想定されています。つまり、配偶者が配偶者居住権を取得し自宅に住み続けたとしても、前述のような問題は生じにくくなります。子供に自宅を相続させ、配偶者は住み続け、さらに預貯金を相続するという柔軟な対応が可能になりました。

また、配偶者居住権は登記をすることが可能です。このことにより、もし自宅を相続した子供が所有権を第三者に譲渡した場合でも、第三者に対抗する権利があるため、配偶者はそれ以後も住み続けることができます。

逆の立場から見れば、第三者が配偶者居住権を知らずに買い取るなどの不利益を被らないように、配偶者居住権の登記が義務付けられたのです。

一方で、長期居住権を取得した場合は、配偶者はその建物を管理・維持するための負担義務(固定資産税の納付など)が生じます。また、自宅の所有者の許可なく賃貸に出したり、譲渡することはできません。

長期居住権の評価方法については、建物の固定資産税評価方法をベースに簡易計算することが予想されていますが、実際、現時点では正確に法律で定められていません。本当にその評価額で合意できるかどうかといった、相続人同士のトラブルが起きる懸念もあるでしょう。